新年あけましておめでとうございます。 2022年初ブログなので新年の挨拶から始めましたが、一月も半分が過ぎましたね。本当に時が経つのは早いです。 さて、今回も文字ばかりですが、土佐備長炭の無形民俗文化財指定について広く知っていただきたいので最後までご一読いただけると幸いです。 高知県無形民俗文化財指定について、昨年12月7日(火)に高知県文化財課による事前調査が行われました。 事前整理として、過去の無形民俗文化財指定の経緯ついては下記の通りです。 平成 17 年 土佐備長炭技術保存会及び室戸市木炭振興会が土佐備長炭の県無形文化財指定について申請する。 平成 19 年 12 月 高知県文化財保護審議会第二部会「技術的評価は認められるが歴史が浅いため指定に向けての調査は行わない」 平成 20 年 2 月 高知県文化財保護審議会全体会「他県の指定制度なども調査し次回の審議会で報告・再度審議」 平成 20 年 7 月 高知県文化財保護審議会全体会「無形民俗文化財の県指定範囲は江戸時代の物が中心で近代期のものは指定していない」「和歌山県から伝承されたもので本県における技術の独自性が脆弱である」 上記の結論に到底納得ができていなかった当時の申請者は半ば諦めてはいましたが、濵田知事が安芸市に来られたことを機に、私から改めて申し入れをしました。このことをきっかけに文化財課が室戸市羽根町にある窯を訪れ、事前調査をしてくれました。話の内容は以下の通りです。
- 文化財課より事前調査の経緯説明
- 審議会としては、前回と【変わらない整理】である為、新しい視点が何かないか考え方の整理していく。前回の結論は【明治以降に伝来した(土佐備長炭の技術は)今の民俗文化財の指定からすると新しい】【横くべの発展発見は独自性の整理がまだ至らない。再整理の為の資料と調べが必要】
- 高知県人の生活文化との密着度がどのようにあるのかを整理しないと検討できない。【歴史】
- 参考資料について、N先生の本以外の資料も調べなければならない。【歴史・独自性】
- 高知県内の生産者(東洋町、室戸市、大月町、安芸市など)の文化財としての技術をまとめた資料の作成が必要。【独自性】
- 土佐備長炭の独自性について
- 林員吉さんによって大量生産できる横くべ方式の技術が誕生し、高知県ではその技術が今も受け継がれている。
- 紀州備長炭の原材料は馬目樫のみ。日向備長炭は樫のみ。土佐備長炭は馬目樫と樫類全般を原材料としている。ここにも独自性がある。森林利用率は1~2%であり、馬目と樫類全般を使用することで半永久的に製造が可能である。
- 馬目だけでは原材料が不足してしまうため樫類全般を原木として使用するようになった。樫の備長炭を森林技術センターで試験し馬目と遜色ない炭であることが証明された。1年目はなかなか売れなかったが2年目で少しずつ売れるようになり3年目から売れるようになった。現在では両方の需要が高い。
- 紀州の縦くべ方式では、曲がった原木はくさびを打って真っすぐにする必要があるが、土佐の横くべ方式では原木をそのまま投入できるようになり手間を省くことができるようになった。
- 横くべ方式について、独自性がないのであればどこに独自性がないのか説明していただきたい。
- 土佐備長炭の歴史について
- 約1200年の歴史がある土佐白炭は品質が低い炭が多く出ていた。
- 明治時代に紀州から備長炭の技術が伝わった際、大師穴(煙道)を改良したことによって、品質の高い炭がより多く生産できるようになった。
- 紀州備長炭は縦くべ方式で生産量は少量である。土佐は紀州の2番煎じであった為、紀州よりもブランド力が低く安く値段をつけられていた。そのため紀州式では当時の職人たちは生活に困窮していたが、大正時代に横くべ方式の確立によって大量生産可能になり生活に困窮しなくなった。
- 大月町や安芸市では一度、備長炭文化は途絶えていたものの、室戸市で横くべ技術を学び備長炭の産業を復活させ、現在は産業として成り立っている。
- 高知県の人は売ることが下手であったことも大量生産する要因の一つでもあった。
- 参考資料について
- 古い資料が昭和位までのものそれ以前のものは処分されている
- 図書館などで調べてみるが県庁にあった資料は昭和20年7月の空襲で焼けている(戦前の資料は戦争で消失している)
- 生産者が持っているもの(資料)や問屋(取引の記録のようなもの)にあるのではないか
- (横くべ方式が)技術的に開けたのは間違いないが、そういったものを記録したものがあるのかないのか、調べていけば非常に参考になるのではないか。
- 高知県無形民俗文化財指定についての今後の方向性
- 古い資料を確認した上で、無形民俗文化財指定の考えを整理する
- 国の無形民俗文化財登録を検討する(登録は国の制度。指定は高知県の制度。基準が厳しいのは県指定。国の登録よりも価値は高い。)
- 宮崎県のように、技術としての登録ではなく街の風景を含めた全体としての文化財の指定とするのか検討する。
- その他
- 前回の協議会の結論は正しかった。その結論に対して生産者は違和感があったため、今回も話をいただいている。過去の結論を違う視点でアプローチがあって理屈を乗り越えるものがあったのかどうか今整理しなくてはいけないと協議会の先生方から指示されている。
- 不明瞭な点 江戸時代と今とどういう関係があるのか、明治から大正時代和歌山から伝わってきた備長炭の技術、それ以前の炭との関係性、明治以降のものを含めて技術として照らして民俗文化財として指定していく考え方の整理をするかどうかは別の議論。古典的にものを考えることにはならない。
- 無形民俗文化財に登録するためには基本的には団体が必要。技術を伝えていく後継者育成を組織としてできる形にしていく。
- 和歌山県の無形民俗文化財指定については、1度の問い合わせだけでは詳細はわからなかった。
- 全国の炭産業・文化が衰退し無くなる中、土佐備長炭は横くべ方式による大量生産によって時代の流れが変化しても生き残れた。
- 航空便搭載について航空法に定められており危険物取り扱いとして紀州備長炭以外は搭載できない。日本海事検定センターで発火実験し安全性を確認したが搭載できない。紀州備長炭のみ特例である。
- 和食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録された。世界的に見ても和食は備長炭の需要が高い。土佐備長炭の無形民族文化財指定についても海外からの視点で考えてみるのはどうか。(「食」が創る文化や社会をいかに次世代に伝え継承しているか。この点では備長炭も同じ)
上記の調査を経て、文化財課は以下のような動きをとってくれています。 文化財保護審議会委員のアドバイスを受け、備長炭の製炭技術の民俗学的評価について助言できる専門家について、和歌山県林業振興課及び文化遺産課から、木炭協同組合窓口を紹介いただいた。 その後近藤氏とのやりとりを踏まえ再度委員と電話協議。和歌山県への依頼は現段階では控え、製炭業者以外で検討するようアドバイスをいただいた。民俗文化財担当委員は年度内は民俗芸能緊急調査対応があるため、その間に候補をピックアップする。 県木材産業振興課へは専門家情報について照会済み。今後、文化庁へ照会予定。 上記の文化財課の動きとは別に、まだ私たちにもできることがあると考え【新しい発見】と【独自性の根拠】を探すべく、資料を読み解きながら情報収集をしています。一先ずは島根県と鹿児島県から。今まで誰も解き明かさなかった事実が発見されるのではないかとドキドキしています。 長い長いブログをご一読いただき、ありがとうございました。何かアドバイスでもご感想でも本当に何でもかまいませんのでコメントいただけると幸いです。 最後に一枚。昨年最後の窯出しで西岡さんは【コザ(炭を窯から出す道具)】デビューをしました。『いやー楽しいですわ!By栄吉』