土佐備長炭一 ブログ

続・知っていますか?土佐備長炭の無形民族文化財指定についてPart 3

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2/2()無形民族文化財指定について part3

 みなさん、こんにちは😃昨日に引き続き土佐備長炭一従業員徳弘が筆を執らせていただきます。

 今日は土佐備長炭の無形民族文化財指定について、僕たちが新たな歴史的解釈を立てて、独自性を立証するために紀州備長炭の窯元さんに連絡をとり、それを高知県の文化財課の職員さんと共有したお話しです。ちなみに具体的に進展したことはありません。研究とは得てしてそういうものです。

 まず、このサイト内で「縦くべ」と「横くべ」について言及したことがなかったと思うので説明していきたいのですが、先にこれから使う専門用語について軽く説明します。頑張って着いてきてください。

・縦くべ=窯正面から見て縦に原木をくべること

・横くべ=窯正面から見て横に原木をくべること

・木部道管=樹木の幹を縦に走る、水を吸い上げる部分のこと

・窯の熱勾配=窯の内部で温度差があるさま。特に上部では熱がこもり温度が高く、下部では大地に放熱が起こり温度が低い

・蒸気圧=詳しくは各自で調べてもらって、この記事では温度が高いと水は蒸発しやすいという認識でいいです

・蒸散=これも各自で調べてもらって、木は上から水が蒸発するときに下から水を吸い上げるという認識でいいです

・落甲=窯の天井の一部または全部が熱収縮と熱膨張を繰り返すことで崩落すること、直接衝撃を与えることでも起こる

 日本三大備長炭産地である紀州・土佐・日向の内、紀州と日向は縦くべ、土佐は横くべで備長炭を作っています。それぞれにメリットとデメリットがあるので説明していきます。

 まずは縦くべのメリットについて、縦くべは原木の向きと、熱勾配の向きが揃っているため原木の上部では温度が高く、下部では温度が低くなります。蒸気圧の差により原木の上部で水分がよく抜けて、蒸散効果により下部の水を吸い上げます。そのとき木部道管も上下方向に向いているので原木内部の乾燥がスムーズに進みます。木が普段していることを窯内部でも行っていると考えれば分かりやすいですね。「乾燥がスムーズに進むと綺麗な炭が出やすい」これが縦くべのメリットです、

 次はデメリットについて、まずは「木拵え」があることです。これは横くべの土佐備長炭には無い工程で、原木を立ててくべる都合上、曲がった原木は窯のスペースを多く取ってしまい、たくさん原木を詰めることが出来ません。そのため原木が曲がったところにチェンソーで切り込みを入れ、そこにくさびを打ち、原木を真っ直ぐに矯正して窯にくべます。

 次が原木を釜口からくべる都合上、「窯口が比較的大きくなり、窯の耐久性に不安がある」ということです。これは森本生長さんから直接聞いた話しで、実際に縦くべの窯と横くべの窯では「横くべの窯の方が耐用年数が長い」そうです。また、くべ方には関係ないですが、土佐の窯には「ねたまき」という天井の補強となる構造があり、後ほど詳しく解説する落甲による事故(負傷・死亡)は縦くべ特有のものであると思われます。

 続いて横くべのメリットは、木を寝かせてくべる都合上、木をテトリスのように組んでくべることができ、「比較的少ない手間で大量に炭が焼ける」という点です。

 次に、窯くべを天井の両サイドの穴(バイ)から行うようになったことで、「窯口が小さくなり、窯の強度が高くなった」ことです。

 横くべのデメリットは、縦くべのメリットの逆で、窯の熱勾配に直行する形で原木を窯にくべるため乾燥が難しく、「特に温度が低い下部では綺麗な炭が出にくい」です。特に馬目と樫では、樫にその差が顕著にあらわれ、樫のみを焼いているウチの窯では窯出しのたびに近藤さんから「床の方がぐちゃぐちゃや」というフレーズを聞きます笑

 縦くべと横くべのメリット・デメリットをひと通り列挙しましたが、僕の意見として、備長炭を焼く上で、一番大事なのは綺麗に原木を焼いてあげることだと思います。その点で紀州や日向の縦くべは理に適っています。土佐の横くべは原木を綺麗に焼くことを一部捨てて、効率を取ったやり方のような気がします。そもそも横くべはどのように生まれたのでしょうか?

 それは生長さんと共同で土佐備長炭の歴史を研究している元高知大学の宮川敏彦先生が著書の中に書いています。意訳すると「明治中期に炭焼きを生業としていた林員吉さんが苦しい生活の中で半ば自棄になって原木を横にくべると、焼き上がった炭が意外と綺麗だった」とあり、この出来事は、高知県民の「いられ」(せっかち)で「だき」(大雑把)な県民性を表しているようで非常に面白いです。

 昭和28年に杉本邦利さんが書いた「安芸木炭」にて林員吉さんはその後、炭焼きたちの研修用の窯で講師を務めたと書いており、研修窯には延べ3000人以上の関係者たちが研修に来たそうです。手間のかからない焼き方があると聞いた高知県民たちがこぞって集まり、かなりのスピード感で高知に横くべの技術が広まったのではないでしょうか。ここはあくまで想像ですが。

 ちなみにウチの窯は横くべですが、悪い炭が出ないように技術で頑張ってカバーしています。そもそも悪い炭が何%出たかはお客様には関係なくて、「選別で綺麗な炭を選び、お客様に品質の良い炭だけを届ける。」というスタンスでやっておりますのでご安心下さい。フォローとして。

 話しを戻して横くべは、「紀州より安く買い叩かれていた土佐。という背景と、高知県民の県民性があってこその独自の技術ではないか。」と考えられます。ですがここまでは概ね、生長さんが文化財課に打診したときに提出した内容と被ります。

 もちろん、生長さんの提案が却下されたので、現在僕たちも土佐備長炭の無形民族文化財化に向けて動いているわけですね。

 ちなみに却下された理由として「歴史が浅い」、「独自性が弱い」といった理由です。ここまで読んでいただいた方は「そんなことないだろ!」とツッコミをいれていただけたのではないでしょうか?これは僕の書き方がズルくて、ここまで長々と「土佐備長炭を文化財化するべき」と主張する僕の意見をちゃんと聞いてくれた人ほど一種のバイアスが掛かっている状態なんですね。

 昨年12月に生長さんの窯で県の文化財課の方たちと打ち合わせをした際に、課長がおっしゃっていた「過去に生長さんの提案を却下した当時の担当の意見も正しい」としながらも「新たな歴史的発見や解釈があれば覆ることがあるかもしれない」という意見に寄り添って考えなければなりません。ただ、土佐備長炭の直接的な歴史や独自性は、生長さんや宮川先生が大方掘り尽くした感があります。文字通り生長さんは昔の窯跡を掘り起こしてますし笑。そこで僕たちは、生長さんや宮川先生ですら調べていない、多角的な、ある種まわりくどいやり方で、土佐備長炭の独自性を立証しようとしています。遠回りしすぎて、今自分がどこを走っているのか分からなくなっている日々です。

 ようやく冒頭で話した本題に移ろうと思ったのですが、前置きがあまりに長くなってしまったので続きは明日にします。

 ご拝読ありがとうございました😊ぜひ明日の分も続けて読んでください。お願いします🙇‍♂️

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